わたし好みの新刊 2015年08月
『川のホタル 森のホタル』(たくさんのふしぎ6月号)
宮武健仁/文・写真 福音館書店
著者は新進気鋭のNature Photoの写真家。一昨年発刊された『桜島の赤い火』
(たくさんのふしぎ)では桜島の真っ赤な噴火を堪能させてもらった。
著者が久しぶりに故郷の徳島に帰って見た光景が…子どもの頃棚田で見た〈ホタ
ル舞う光景〉だった。そこから著者のホタル撮影が始まった。今号のタイトルは
『川のホタル 山のホタル』である。このタイトルに「あれっ?」と思われる人は
いないだろうか。もし,このタイトルがすっと目に入る人はかなりのホタル通にちが
いない。ふつうは渓流などで見られるゲンジボタル,ヘイケボタルがホタルの主役
である。ホタルと言えば水辺の昆虫という印象が強い。しかし,ホタルの多くは陸
上にいる。人には気づかれていないが日本にも陸生のホタルが棲息している。
この本では陸生ホタルの飛翔風景もたくさん紹介してくれている。
この本も,ゲンジボタルでの光景から始まっている。徳島県の吉野川の支流沿い
だそうだがすごい数である。夜中の12時にもゲンジボタルの飛ぶピークがあるらし
い。写真の効果かもしれないがまさにホタル乱舞の光景である。次の場面は沈下
橋が見える四万十川上流にうつる。まあ,岸一面が光輝いている。幻想的な風景
が現れている。次に,水田のヘイケボタルが出てくる。ここでホタルの成長過程も
紹介されている。いよいよ「山のホタル」の写真が続く。ある時著者は標高1900m
の山中でキラキラ光る小さな虫に遭遇する。また広島県で〈キンボタル〉が飛ぶと
いう話も耳にする。そこで著者はその〈キンボタル〉の撮影に出かけた。夜7時も
すぎると暗い森の地面一杯に広がるチカチカキラキラの世界が飛び込んできた。
点滅間隔が短いヒメボタルの発光である。すばらしい写真で読者を魅了していく。
2015,06刊 667円
『空を飛ばない鳥たち』(サイエンスブックス)上田恵介/監修 誠文堂新光社
監修者の専門は鳥の行動生態学。今までから『花・鳥・虫のしがらみ進化論』
(築地書館)などユニークな本も出ている。今回の本も語り口は楽しそうだ。本の
題名が『空を飛べない鳥たち』ではなくて『空を飛ばない鳥たち』である。あえて
空を〈飛ばない鳥〉がたくさんいる。飛ぶことをやめて飛ばないで地上を駆け巡る
のも鳥の進化の一つなのだ。
そういう目で見ていくと世界にはたくさんの〈飛ばない鳥〉がいる。ペンギンが
水中を駆け巡ることができるのも〈飛ばない翼〉に強力な胸筋や骨を発達させたか
らだという。空を飛べなくても地上を走り水中を泳ぎ回る方が都合よく生活できるか
らだ。
この本は図鑑風なので40種ぐらいの世界の〈飛ばない鳥〉が紹介されている。
日本にしかいない〈飛ばない鳥〉がヤンバルクイナである。この鳥は,もともと沖
縄本島北部の「やんばる地方」に棲んでいたのが近年は絶滅の危機にさらされて
いる。ハブ駆除のためにもたらされたマングースがヤンバルクイナの天敵になって
いるとか。保護活動もされているとのことであるが数は減り続けている。こうした
〈飛ばない鳥〉は,島などで羽を持たない鳥に進化したことがあだになって外来種
の侵入から逃れられなくなっている。それだけに絶滅も早いのだという。その外来
種の侵入に人間が荷担していることが多いのだという。灯台守が持ち込んだネコ一
匹のために世界でただ一種しかいなかった〈飛ばない小鳥〉が絶滅してしまったと
いう悲運な話も紹介されている。ニュージーランドの小さな島、スティーブン島での
話である。
「その楽園で進化した多くの飛ばない鳥たちが、人間のせいで絶滅に追い込まれま
した。……私たち人類は、地球の上で彼らと共に生きていかなくてはなりません。
そのための知恵こそが、私たちに求められているのです。」と上田恵介さんは締め
くくっている。
2015,02刊 2,200円